テレビ番組制作では、ディレクターのことを、演出家という場合があります。名刺には「演出(家)」と書いている人もいれば、「ディレクター」と称している人もいます。「演出家」と「ディレクター」は何が違うのか、考えてみました。
演出ということばの語源をあたってみますと、「(教えなど)を世間に広める」という意味だったのを、明治時代以降、演劇や演戯などの影響から現代の意味で用いられるようになったそうです。察するに、仏教や儒教の教えを世のなかに広めるときに、人々の年齢や状況や教養や地域の風習や文化にあわせて、身近な例や身に置き換えることができる事例を参考にして、言い換えたり 何かに見立てたり かみ砕いたりして表現をかえていたのでしょう。
明治ころに、演劇という言葉が生れて、「演」という言葉のつながりから、役者の演技指導や、舞台をつくる総責任者を「演出家」と言い始めたのだと思います。
テレビの場合も、ドラマだったりバラエティ番組では、ディレクターよりも、「演出家」という名称が使われているようです。まっさらな更地(スタジオ)に演出家が考える世界観のセットを組み、役者や芸人を集めて、台本や脚本に沿って演技の指導をしたり、割り当てられた役割を理解してもらって、世界観を現実のものへと構築していきます。0ベースから作りあげるので、フィクションの要素が多い、作り物の世界を作っている番組は、「演出家」を使うのではないでしょうか。
では、「ディレクター」の語源はなんでしょうか。ディレクターは、英語でDirectorと書きます。語源は、directionで、「方向」「指示」という意味。directでは、「まっすぐな、直進的な、一直線の」という意味です。ディレクターの仕事は、方向性を決めて、スタッフにその方向に向かって指示をするという役割です。方向性は、番組の企画テーマでもあります。
例えば、私たちはグルメ番組をよく手掛けるのですが、一口にグルメといっても、たくさんの要素があります。ざっと思いつくだけでも、料理、値段、立地、主人、客、店内の設え、などがあります。どの面を際立たせるのか、で、見せ方が変わりますし、撮影の仕方も変わります。撮影対象が既存の人物や店はつくりものではなく、すでに存在しつづけているものを撮影する場合にディレクターと呼ぶのではないかと思います。取材対象者がいる場合は「ディレクター」と言い、出演者をキャスティングして制作するものは「演出家」と言う。演出家がフィクションなら、ディレクターはノンフィクションと言えそうです。
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