弊社ではテレビCMを制作しております。かつての案件で、効果はないだろうな、と思いつつ制作したことがあります。クライアントにも、このままテレビCMしてもリアクションは薄いこと。商品がテレビ向けではないことなどを言葉を違えてご説明しましたが、意志はかわらず、放送に至ってしまい、結果、満足な効果を感じられないまま終わってしまいました。
なぜ、テレビCMを出すのか?
なぜテレビCMを出したいのか、クライアントさんに聞いてみたところ、以前テレビCMで通販をしたらものすごく売れたので。とのこと。どのくらい前のことか聞いてみたら、なんと、30年くらい前。30年前と今とでは、テレビCMの目的も影響も全く変わっていますと説明しました。担当者はご理解いただけましたが、決定権のある上司の意志を変えることはできませんでした。
30年前と今はどれほど変化している?
テレビの視聴者が激減していることと、テレビCMだけでは購買のアクションに至らないことを説明しました。
視聴者の減少
視聴者が減っているのは、具体的なデータを探さなくても説明できます。日本の15歳から64歳の人口は1990年は8590万人。2020年は7437万人に減少しています。
テレビを見ていて、購買力のある人口が1100万人減っているということです。
チャンネルの増加
テレビのチャンネルは、1990年ころ民放地上波は5局でした。まだBS放送、CS放送は普及していません。ちなみにNHKでBS放送が始まったのは1989年からで、WOWOWが始まったのは1991年です。今は、地上波、BS、CS、ケーブルテレビ、ネット番組、見逃し配信、サブスク配信とチャンネル数は数え切れません
CMを出す目的
クライアントさんたちのテレビCMを出す目的は、
A社は、商品の認知と購買
B社は、既存客に思いだしてもらい、自社のECサイトへ流入し購買
両者とも、ゴールは「購入」ボタンをクリックさせること。テレビCMの目的は、「こういう商品があります」と知ってもらうことです。CMを見たら、即、購入には至りません。
その商品が、ちょうど必要だとしたら、購入する可能性はありますが、そうそうタイミングが合うことはレアなケースです。これが食品や日用品であれば、CMでやっていた商品だ!と手にすることはありますが、そうではない、ニッチな商品だと、欲しい!買おう!とはなりません。
商品を知ってから、購買へ至るまでは、段階があります。
「CMなどの広告で商品を知る」 → 「どんな会社が作っているのか、あるいは販売しているのかをHPで知る」 → 「類似商品があるのかどうか情報を集める」 → 「ほかの類似商品の情報や口コミなどで検討する」 → 「購入する」
HPを見たり、検索する間に、家族や知人、信頼するSNSの発信者などからおススメされたり、使ってみてよかった、という発言があれば、購入されるでしょう。
テレビCMで商品を知って、即、購入というアクションにはならないのです。
テレビを見ている人たちの心理
テレビCMは、文脈がなく、突然挿入される映像です。これが番組とは違うところで、番組の中で取り上げられると、それまで知られていなかったり見向きもされなかった商品がいきなり売れることがあります。それは、番組のなかで、その商品のストーリーが形成されているため、視聴者がその商品に共感するからなのです。
クライアントさんに提案するべきだったこと
クライアントさんのためを思って進言するべきだったのは、商品のお客さんがどこにいるのかをリサーチするべき、ということ。モニターを集めて、商品を使ってもらって、感想を集める。わざわざモニターを集めなくても、家族や友人に使ってもらって感想をきくだけでも大きな発見があります。クライアントが想定していたお客像や使用方法と、実際のユーザーに剥離がある例もたくさんあります。
A社の商品は防災グッズとしての位置付けで販売されています。今の自分であれば、モニターをするなら、山小屋に宿泊する登山客に使ってもらって、アンケートをとってみては、と提案します。
なぜなら、
・防災グッズと登山用品には共通項が多いこと。(登山用品の多くは身を守るためのもの)
・山は天候が読めない、過酷な状況になりやすい、もしルートを外れたら命の危険がある。
そういうわけで登山にくる人たちは基本的に身を守る商品に対しての意識が高いこと。
・山小屋の夜は、食事をしたらやることがないので、時間を持て余している人はアンケートに回答してくれるかもしれません。
・年齢層も幅広く、教養のある人が多く、登山が趣味という共通項以外の属性が多様なので、いろいろな意見が集まる可能性があります。
テレビCMではうまくいきませんでしたが、本当に必要としている人にこの商品について知ってもらえたら、と願っています。
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